中国高自然放射線地域研究で見られたパラドックス

財団法人体質研究会
理事長 菅原 努


 中国では、1972年から高自然放射線地域に住む人たちのがん死亡について継続調査(疫学研究)が行われています。この調査に対し、1991年に日中で調査方法等についての検討を行った後、1992年から現在も継続して共同研究を行っています。

 調査の主な項目は、環境および個人の線量計測、血液中のリンパ球を対象とした染色体異常、および死亡の疫学調査です。この高自然放射線地域の環境線量は年当たり6.4mSvで、比較対照地域の年当たり2.4mSvに対して約3倍高くなっています。両地域のがん死亡率を比較しますと、がん全体あるいは固形がんともに、高自然放射線地域のがん死亡率は高いとも低いともいえないというデータが得られました。

 放射線を受けた人の体内には、放射線を受けた証拠として染色体異常が生じます。この染色体異常がどのくらいあるのかという調査をしました。  

 染色体異常には、細胞分裂をするときに染色体異常を持っていることにより細胞が死ぬため、染色体異常の数が徐々に減っていく不安定型染色体異常と、細胞分裂後も染色体異常を持ったまま細胞が生存可能な安定型染色体異常の2種類があります。不安定型染色体異常を調べた結果、積算線量に比例して直線的に増加することがわかりました。それに対し、安定型染色体異常は、年齢とともに増加しますが線量が増加しても増えませんでした。これらの染色体異常は、理論的には同じ数だけ出来ているはずです。それにも関わらず両者に違いがあるのは何故でしょうか。不安定型染色体異常はがんと直接に関係しないと考えても、この異常がDNAの切断によるものならば、それに相当したがんの増加が見られないのは謎です。  

 この疫学調査研究の結果は、従来の考え方では説明が困難な新しい生物学上の課題です。


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