第45回日本放射線影響学会

平成14年9月18〜20日
仙台・メルパルクSENDAI

 

T.低線量前照射による放射線抵抗性の獲得のメカニズムについて

U.低線量率(〜1mGy/h長期連続照射の影響について)

ワークショップ「低線量放射線の生態影響研究−高バックグラウンド研究から宇宙研究へ」

 

T.低線量前照射による放射線抵抗性の獲得のメカニズムについて

内因性脾コロニー*の増加回復

 低線量放射線の事前照射によって、マウスが放射線抵抗性を獲得して後の高線量本照射(7-8.5Gy)による骨髄死が下表のように2種類の線量域で抑制されることは報告されている。

*
マウス脾臓の造血幹細胞が増殖して形成する細胞群(コロニー)のことで、造血能力の指標となる。高線量放射線によってこの増殖能、つまり造血能力が低下するが、前照射しておくとその低下が抑制される。

 

前照射線量
抵抗性の発現時期
持続期間
<0.025Gy
     
0.05-0.1Gy
照射後2-2.5ヶ月後
約2週間
0.2Gy
     
0.3-0.5Gy
照射後2週間後
約9日間

 

 本実験は、この放射線抵抗性が誘導される生物学的メカニズムを解明する目的で、5Gy本照射後の内因性幹細胞数の回復に及ぼす事前照射の影響を後者の線量域において検討した。

 

 

 

 

 事前照射2週間後の生存率の上昇(骨髄死の抑制)にはここで示されたような造血幹細胞の増加が一つの理由と考えられるが、生存率の上昇と造血幹細胞の増加はタイミングが少しずれている(つまり生存率の上昇は9日後でもすでに見られるのに対して、造血幹細胞の増加は9日後ではまだ見られない)。したがって生存率の上昇には他の因子も関与していると思われる。

 

Trp53*の関与

 上記と同じ実験条件で放射線抵抗性の獲得におけるp53の関与を検討した。

*
Transformation-relating protein53(細胞変異関連タンパク53 kDa)の略で、一般のp53タンパクと同じ意味。kDaは分子量の大きさの単位。

 5Gy本照射後の値の比較を行った。

抹消血血球数 5Gy本照射後14日目
抹消血球数の現象が見られ、減少の程度は
Trp53(-/-)* < Trp53(+/-)** < Trp53(+/+)***

*

ノックアウト型。双方の親からp53遺伝子を受け継いでいない

**
ヘテロ型。どちらか一方からだけp53遺伝子を受け継いでいる
***
野生型。両親から一つづつp53遺伝子を受け継いでいる。p53に関しては正常なマウス

0.45Gy事前照射+5Gy本照射後14日目
抹消血球数の減少に対する事前照射の影響の程度は
Trp53(-/-) < Trp53(+/-) < Trp53(+/+)

脾臓重量 5Gy本照射後14日目
重量の減少が
Trp53(-/-)〜0(減少なし)
Trp53(+/-) < Trp53(+/+)(減少 大)

0.45Gy事前照射+5Gy本照射後14日目
影響がTrp53(-/-)〜0(事前照射の影響なし)
Trp53(+/-) < Trp53(+/+)(事前照射の影響大、重量増加)

内因性脾コロニー数 0.45Gy事前照射+5Gy本照射 12日目
コロニー数の増加
Trp53(-/-)〜0(事前照射の影響なし)
Trp53(+/-) < Trp53(+/+)(増加 大)

  
0.45Gy事前照射の影響の程度
Trp53(+/+)
Trp53(+/-)
Trp53(-/-)

抹消血球数

脾臓重量の減少
〜0
内因性脾コロニー数
〜0

 Trp53発現の程度によってこれらのパラメータに対して異なる影響が見られたことから、p53の関与が示唆される。

 

T細胞依存性の免疫能の関与

(Cunningham法を用いて測定した)T細胞依存性の細胞傷害性は、少なくとも本照射後20日までにおいては、事前照射による生存率上昇の原因ではないと考えられる。

以上より、0.45Gy事前照射による生存率上昇の原因として、

1. 造血幹細胞の増加による血球数の回復
2. p53の活性化

が考えられた。


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