5,新しい拘束値を選択する際の要因


 現行システムは、あまりに複雑で数値を決定するのに少なくとも6種類の方法を使用しており、地球上の平均的な自然放射線の約10倍に相当する最大拘束値を設定してきた。「行為」のためであれ、「介入」のためであれ、また、職業人対象であれ、公衆対象であれ、通常何らかの対策が必要だと考えられている線量は、このレベルである。

 ICRPは、自然線源からの年間線量について合理的だと考えられるように、拘束値を改訂するためにどのようなレベルを選択するか、その出発点を検討中である。自然放射線の存在は、今以上の被ばくを正当化する根拠にはならないが、相対的な重要性に関する判断基準にはなり得る。あらゆる自然線源からの世界の平均年間実効線量は、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告によると、ラドンを含めて2.4mSv(UNSCEAR 2000)である。

 関心の程度と被ばくのレベルに対する一般的枠組みは、平均年間自然放射線レベルの倍数値または少数値で表示され、表2に記載されている。自然放射線からの実効線量は世界の地域によって少なくとも10倍の差があり、高線量のラドンが含まれている場合には更に差が大きくなるという事実は、対象を自然界の範囲の上限まで引き上げるべきだという意見の根拠になっている。

 更に高い個人の実効線量、すなわち年間100mSv以上では、事故や有人宇宙飛行の際の人命救助対策など異常事態を除いては、線源のリスクは正当化できない。500mSvの位の個人線量は、もし急性であれば初期の確定的影響を惹き起こす可能性があり、急性であっても何10年にもわたって被ばくする場合であっても、発癌リスクの増加確率が極めて高くなる可能性がある。これは個人関連の線量制限の値となり、担当当局は当該個人が制御可能な線源から新たに大量線量を受けないように保証しなければならない。

 その極端な対極例として、自然放射線の年間実効線量よりもはるかに低い実効線量は、個人被ばくにとって心配すべきものではない。無視できないと判断された行為から発生した新たな線量の場合にも、その線量は社会にとっての新たな関心事とはならない。被ばくの最も大きい人の実効線量が年間約0.01mSvより低い場合、あるいはそうなりそうな場合、結果的にリスクは無視できる程度のものであり、防護は最適化されたと考えることができるので、それ以上の規制の必要性を心配する必要はない。


  表2 年間に受ける個人実効線量と重要度の度合い。すべての線源から発生する地球全体の平均年間自然背景放射線の実効線量は、2.4mSv (UNSCEAR 2000資料による)である。
 
  高い 100mSv以上
  やや高い 10mSvより高い
  低い 1-10 mSv
  非常に低い 1mSv未満
  なし 0.01mSv以下
 

 中位の範囲についていうと、mSで2桁から小数位までの線量は、単一被ばくでも反復被ばくでも懸念の対象になるのは当然のことであり、規制組織による対策が必要になる。問題は、現行勧告にある20-30個の拘束値の数をもっと少なくできるかどうかである。さらには、拘束値は自然放射線の倍数値や少数値で、もっと一貫性のある形で表現できないものだろうか。

    

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