慢性的被ばく線量と急性障害症状の発現

 

A. 慢性的被ばく線量の諸因子

表3に被爆者の受けた被ばく要因の因子を示す。

表3 線量の分類

直接被ばく:γ線 中性子
慢性被ばく:β線 γ線
  (1)外部被ばく @フォールアウト(黒い雨)
  A地表の誘導放射能
  (2)内部被ばく B体内の誘導放射能
  C放射性物質の吸引または摂取

 @のフォールアウトに関しては、原爆炸裂の約20‐30分後、市内の広い領域にわたって強い放射能を持つ黒色の雨が強く降ったことは良く知られている(10,11,12)。報告によると広島では図3(10,12)に示すように爆心地から北西の方向に向かってかなりの広い地域に及んだとされ、長直径、短直径それぞれ29km,15kmの楕円形をしている。長崎では東の方向であった。日米共同調査報告書(14)によると、長崎のある地区ではフォールアウトの残留放射能による累積被ばく線量は2.7Gyにも達している。

 

図3 "黒い雨"の降った地域

 

 フォールアウトによる被ばく者に関して詳しく調べた種々の急性障害症状の報告がある(16)。それは、フォールアウトに被ばくをしていない16,045人の被爆者に対して被ばく者の287症例を調べたものである。

 原爆被爆については数多くの公的、私的報告や手記、ドキュメンタリー作品(7)があり、いろいろな面から広島・長崎の被爆者の実態が記述されている。それらの中には、フォールアウトや誘導放射能に関する様々な情報が報告されており、また、原爆炸裂時に市内で被ばくしたか否かに係わらず、多くの生存者についての急性放射線障害の症例が記述されているものがある。

 フォールアウトによる入市被ばく者について一つの有名な話は、広島気象台に務めていた宇田道隆の息子さんの話である(10,11,12)。彼(小学生)は原爆炸裂時に広島にはいなかった。彼は2ヶ月後に爆心地から2.4km西にある自宅に帰ってきた。自宅に居住している間、放射線傷害の典型的な症状である脱毛を経験した。その理由を理化学研究所の専門家に調査を依頼したところ、原因は、寝室の雨戸にくっついていたフォールアウトの残留物による強い放射能が原因であることが分かったのである。

 Aの地表からの被ばくに関しては、中性子照射が原因でできた誘導放射能による被ばくがある。当時の日本各地の空襲被災者は、家が空襲によって焼かれた後、元の場所に建てられた一時的に修復された家や粗末なバラックに長年住んでいた。このことから、被爆者は直接被ばくに加えて慢性的被ばくを受けたに違いなく、長崎では被爆者のおよそ32%がこのような状態で住んでいたと報告されている(13)

 日米合同調査報告書によると、原爆炸裂後100時間以内に爆心地から1km以内に立ち入った人が誘導放射能から受けた累積線量は、広島で1.2グレイ、長崎で0.5グレイと推定されている(14)。  

 Bの体内の誘導放射能に関しては、すでに1945年の秋に故杉山氏による報告(15)が注目される。彼は、京都大学から派遣された調査団の団長であり、次のように述べている。

「死因の最も重要なものは、中性子によって人体内に作られた放射性原子核からのβ線の効果である。勿論、原爆炸裂時に人体外から照射された中性子や他の放射性物質の影響も重要ではあるが」

    

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