主委員会

 主委員会では、各専門委員会からあがってくる検討結果をICRPとして採択し刊行することについて検討しますが、現在の主委員会としての中心の検討課題は、1990年勧告にかわる新しい基本勧告の検討です。

 しきい値なしの直線仮説はICRPの勧告する放射線防護体系の基礎ですが、このホームページでも紹介(解説)されているように、このしきい値なしの直線仮説について様々に議論されています。しきい値があるかないかということの他、単位線量あたりの障害の発生率についても、その推定値が大き過ぎるあるいは小さ過ぎるといった意見が出されています。

 さらに、「行為」と「介入」の区分を明確にできない状況がある、線量限度の意味合いがどうしても危険と安全の境界として受け取られてしまう、時間的・空間的に広がり非常に小線量までを考慮した集団線量の適用には困難がある、一般公衆に対する線量限度は1mSvなのにラドンについての対策レベルは年3-10mSvのレベルが示されているなどといった指摘もなされています。

 ICRPはこれらの意見や指摘があることを認識した上で、「個人被ばく線量の管理」といった視点から新しい放射線防護体系を組み上げて、2005年を目標に鋭意検討が進められています。個人被ばく線量の管理とは、次のようなことです。被ばくはこれまで、被ばくする状況ごとに「職業被ばく」、「医療被ばく」、「公衆被ばく」と分け、それぞれ別のカテゴリーとして放射線防護・管理の具体的方策がとられてきました。しかし、例えば原子力発電所のような放射線施設で働く人個人として考えてみると、発電所に行けば職業人として5年間100mSvの線量限度で管理され、具合が悪くなって病院に行きX線検査をする場合は医療被ばくなので線量限度はありません、そして、家に帰れば一般公衆として1年間1mSvの公衆被ばくの線量限度が適用されることになります。さらに、自然放射線により世界平均で1年間2.4mSvの被ばくを受けています。放射線を受けることとなる理由は様々であるにせよ、放射線を受ける個人から見れば被ばくは全体として考えて、必要な管理等を行う方が一貫性があるとする考え方です。

 この個人被ばく線量の管理についての検討はまだまだ検討されるべき点が多く、最終的な具体案が見えてくるには時間がかかりそうですが、どのくらいの線量レベルであればどの対象にはどういった放射線防護の対策が必要であるといったことが示される形となりそうです。そのレベルの線量にどのくらいの防護対策を施すかといったことは、「最適化」という概念で考えられます。放射線防護の考え方の変遷の項でも述べましたが、「最適化」は今後ますます重要となる放射線防護の考え方です。

 

第1専門委員会(放射線影響)

 広島・長崎の原爆被爆生存者の疫学調査データは、調査期間が延びて追加のデータが得られています。これらのデータを解析して、Publication 60(1990年)の時点と発がんリスクの推定に変更がないかについての検討がなされています。

 疫学調査や動物実験データなどの放射線生物学の観点から、しきい値なしの直線仮説についての検討も続けられていますが、疫学データを見ても50mSv程度の線量で統計的に有意ではないものの増加が認められていることなどから、現段階ではしきい値の存在を認める方向とはなっていません。

 

第2専門委員会(補助限度)

 第2専門委員会における現在の中心的課題の1つとして、内部被ばく線量評価のためのモデルやデータの整備があげられます。

 放射性物質が体内に取り込まれた後、身体の中でどのように分布しどのように排泄されるかは、コンパートメントモデルという数学モデルで記述されます。放射性物質の身体への侵入の門戸は、汚染した空気を吸う場合は肺、放射能を含んだ食物を食べる場合は胃腸管となります。それぞれ肺モデル、胃腸管モデルが作成されており、詳細化、高精度化が図られています。

 また、従来は職業人を対象とした放射線防護が中心でしたが、対象が一般公衆に広がり、小児や胎児を対象としたモデルや代謝パラメータを整備する必要が生じてきました。このため、様々な放射性核種についてデータの整備が続けられています。

 

第3専門委員会(医療領域における放射線防護)

 一番新しい検討課題は「放射線治療に伴う事故の防止」であり、検討が最近終了してPublicationとして出版される段階にあります。放射線治療では患者に意図的にかなり高い線量を照射するため、様々な理由から過剰照射が起き、副作用として重篤な障害が出たり、逆に過小照射で十分な治療成績が得られない場合があります。このPublicationには、過去25年間の放射線治療事故例を調査し、事故の経過や影響、原因と防止対策などについて解説されています。

 他の課題として、「CT検査の被ばく線量の低減」があげられます。CT検査は、らせんCTなど撮影技術が進歩し、その使用頻度や検査の種類が増えてきています。しかし、X線検査の中では被ばく線量が高いことから、使用にあたり、本当にその検査が必要かという正当化が重要と考えられます。診断の精度を落とさずに、被ばく線量の低減をいかに図るかが検討されています。

 

第4専門委員会(勧告の適用)

 主委員会で検討されている新しい基本勧告の内容について、第4専門委員会においても具体的に検討が進められています。主なテーマとして、被ばくのカテゴリー(自然放射線、除外と免除)、個人の放射線防護(限度のレベル、決定グループなど)、防護の最適化(集団線量、ALARAなど)、潜在被ばくと緊急時対応などがあげられます。

 第4専門委員会自体の検討課題としては、「環境の保護」があげられます。これまでICRPは人を対象とした放射線防護が適切に行われていれば、環境や環境における人以外の生物種の防護も達成されると考えてきましたが、チェルノブイリ事故の影響などから環境そのものに対する防護も視野に入れる必要があるのではないかという検討が行われています。


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