低線量放射線による抗酸化系の活性化

 種々の小動物、あるいは培養細菌にキノン系抗がん剤、金属、紫外線、あるいは過酸化水素などを曝露させることにより、生体は適応応答を示し、活性酸素種に対する防御系である抗酸化系を活性化する例が数多く知られている。低線量放射線を照射した場合も抗酸化系が活性化されることが報告されている。以下では、GSHおよび抗酸化酵素に着目し、低線量放射線による生体内抗酸化能の活性化機構を探る。

 

低線量γ線照射によるグルタチオン合成能の誘導

 前に述べた還元型グルタチオン(GSH)は、抗酸化活性をはじめとして、ホルムアルデヒド脱水素酵素などの補酵素、細胞の増殖、抗がん剤などに対する解毒作用などの生理活性をもち、生体の防御という観点からはきわめて重要な生体防御因子の一つである。また、GSHはGPXの触媒により過酸化水素および脂質過酸化物を、それぞれ、水およびアルコールに還元する。この反応の結果生じたGSSGはGSH再生サイクルに入り、NADPH存在下で、グルタチオン還元酵素(GR)の触媒によりGSHに再生される。

 低線量放射線照射により最も顕著な抗酸化能の誘導がみられたマウス肝臓でのGSHの誘導について紹介する。すなわち、低線量γ線照射後の肝臓での総GSH濃度の経時変化は図4aに示す通りである。総GSH濃度は50 cGy(10‐2 Gy)のγ線照射3時間後より上昇し、6〜12時間後に最大値を、その後、低下して、24時間後には正常値に戻るという一過性の活性変化を示すことがわかった(文献5)。 これから、放射線に対する生体の適応応答の一つとして、GSHが放射線の照射により誘導され、引続き来襲するであろう放射線により生じる活性酸素種の対処するための防御機構を整えていることが推察される。

    

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