3.まとめ

 以上のように、米国の臨界事故で被ばくした人々の例を見ると、高い被ばくを受け一時的に急性放射線症にかかった人でも、それを克服し回復した後は、重大な後遺症はなく、普通の人と同じ生活に戻っていることがわかります。肺ガンや心臓病などで比較的早く亡くなった例もありますが、これらは被ばくよりも別の要因が強く働いているものと考えられています。ただし、Eさんの場合は事故後19年目に急性白血病で死亡しており、一応被ばくとの関係が疑われます。白血病は、放射線被ばくがなくても、毎年10万人に5人程度の自然発生率があります。広島、長崎の被ばく者の膨大な調査結果からは、約0.3グレイの被ばく量で白血病の発生率が倍増すること、発病は被ばくの2〜3年後から始まり、6〜8年がピークで、その後低下することなどが明らかになっています。こうした一般的な傾向からすれば、Eさんの被ばくは0.16グレイと低く、18年後の発病が被ばくの影響であるとは断定しがたいレベルであるといえます。

 一般の人々が放射線の影響について不安に思うのは、白血病などの心配のほかに、遺伝的影響です。この点については、広島、長崎のいわゆる「被ばく二世」について、永年にわたる膨大な調査結果がまとめられています。その結果から、0.5グレイ以下の被ばくでは、遺伝的影響はまったく心配する必要がないことが明らかになっています。ここで紹介したように、ロス・アラモスの事故で1.92グレイの被ばくをしたAさんは、その後健康な男児に恵まれました。また、オークリッジの事故で被ばくした8名のうち7名は既婚者で既に子供を持っていましたが、そのうち1名は事故の後に更に1名の子供をもうけました。最年少の1名は独身でしたが婚約中で、事故の2ケ月後には結婚をし、その後2人の健康な女児に恵まれました。日本では、被ばくは遺伝障害を生ずるという風聞が流布され、こうした場合破談に至りがちですが、当時のオークリッジ市民はこの臨界事故を比較的冷静に受け止め、非科学的な心配や偏見がなかったということを物語っています。

    

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