3.この10年で何が新しく分かったか


 この紙面で高自然放射線地域のことを報告したのは、初めに書いたように丁度10年前の1990年のことでした。それからこのように日中共同研究が始まったのですが、研究の内容は全体として前に報告したものと同様ですが、ではこの10年でどんな成果があったのかを重点的に纏めて見ます。

3-1 線量 
 精度が大きく向上したのは線量推定です。先ず前の報告では村落の周辺の大地からの放射線を測定しそれをそこの住民の受ける線量としていました。日本から近畿大学の森嶋教授らが現地に行って測定して最初に気づかれたことは、屋内の線量が屋外のそれに比べて2倍以上高いということです。その原因は建材の煉瓦にあることがわかりました。この煉瓦の出所を探したところ、それは部落周辺の土地を1m位掘った土を固めて作っていることが分かりました。ところが、その煉瓦に取っている部分の土の放射能が地表の土より高いのです。従って住民の受ける線量はその人がどの位家に居るかによって変わりますので、これを個人毎に測定せねばなりません。それを総ての住民について行うことは実行不可能ですので、一部の人については線量計を携帯してもらって個人線量を実測する、その他については居住係数(一日のうちそれぞれの場所にどれだけの時間居たかを係数に直したもの)とそれぞれの場所の線量から計算で求めることにしました。

 この他に勿論最近問題になっている空気中のラドンとその崩壊産物についても季節を分けて6月から8月までと1月から3月までの二回測定し、また食物についても放射能の測定を行いました。これらを基に全体として一人のヒトが受ける全線量を代表的な例について計算したものが、表1です。まえにはこれを高自然放射線地域と対照地域とでそれぞれ5.37と2.01と推定していましたので、今度は5.87と1.67となりこの差がもっと大きかったということになります。

 

 この様な居住内と屋外との線量の差は同じ高放射線地域といっても場所によって異なります。例えばインドのケララ地方では屋内の方が屋外より低いのが普通です。イランの場合はラジュウム温泉による汚染ですので、もっと複雑ですが壁が汚染していて屋内線量の高い例があります。チェルノブイルなどの事故の例では一般に屋外の汚染が大きいのが普通です。このようなことから住民の個人が受ける放射線量というのはなかなか簡単な測定だけでは求められないという教訓を得ました。

    

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